影の影

一仕事終えて帰社する吉祥寺繁華街の裏道で、

足元を見ると、夕日にあたった自分の影が地面に延びていた。

「ずいぶんくたびれた影だな」と思いながら、

ふと同じような影があるのに気がいた。

「影が2つ出ることなんてあるのかな?」

不思議な現象。誰かの影なのか?

後ろを振り返るが、誰もいなかった。

この影は私の影に違いない。

「この影は何?

 私にしか見えない影の影だったりして?」

そんな怪奇現象の全てを信じない私は、

2番目の影の真後ろを見てみた。

すると、建設中の真新しいブランシュビルのガラス張りの壁に

もう一つの夕日が、輪郭を鈍くして映っていた。

その夕日が、もう一つの私の影をつくり出していたのである。

2つの影をよく見ると、元は同じだが、

1番目の影は、存在感を示すようないつものシルエットだが、

2番目の影は、安物のコピーのように、カスれて、弱弱しい。

まるで消えかかっているもう一人の自分のようだ。

やっぱり複写はそんなものだ。

でも、複写の影も自分の影。

再び、擦れた自分の影の影に会えるはいつだろう。

本を楽しむ人の会

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